作例を11本作ったとき、横長で作って、スマホの縦の画面にはそれを切って置けばいいと思っていました。違いました。切ると、文字の端が消え、商品が半分になります。事業を回しながら、人に見せるものも自分で作っている人なら、心当たりがあるかもしれません。写真を1枚撮って、Web サイトに置き、Instagram にも上げ、打ち合わせの資料にも貼る。置く場所ごとに、求められる形が違います。
横長の画面は、物を左右に並べる形です。左に商品、右に名前と価格、というように。これを縦に切ると、残るのは真ん中の3分の1あたりだけです。左右に置いた物は、両端から順に画面の外へ出ます。文字は右端の近くまで伸びていることが多いので、いちばん先に消えるのは文の終わりです。つまり、いちばん言いたかった結びが無くなります。
そこで、作例11本の全部に、縦の構図を別に作りました。切り抜きではなく、別の並べ方です。私たちの作例は動画のファイルではなく、ブラウザの中で HTML・CSS・JavaScript で描いています。1本の映像は、何秒目かを受け取ると、その瞬間の絵を返す関数です。この関数に受け取るものを1つ足しました。今は枠が細い、という合図です。合図が立っているときは、別の配置で描きます。切り替わる境目は、枠の幅が 560px より狭いときにしました。
縦になると、左右に並べていた物は上下に積み替わります。1行に入る字数が減るので、改行の位置を決め直します。寄りの大きさも変わります。横長では全体が見えていた物が、縦では近すぎて何なのか分からなくなることがあるからです。同じ15秒で、伝えることも同じで、絵の組み方だけが別になります。
確かめ方も変えました。動いている映像を眺めていても、切れているところは見つかりません。目は動きを追ってしまうので、端のほうを見ていないのです。そこで時計を止めて、1本につき10コマずつ写真に撮りました。PC の大きさ(1440×900)とスマホの大きさ(390×844)の両方です。止めた絵を並べると、見落としはすぐに出てきます。
出てきたものを書きます。EV の作例では、車の上が切れていました。別の作例では、性能の数字が上で切れていました。リゾートの作例では、地名が右で切れていました。スマホでは価格の行が切れ、美容の作例では見出しの折り返しが不格好で、地図の文字は小さすぎて読めませんでした。1本は枠の高さが 0 になって、何も映っていませんでした。どれも、動かして見ていたときには気づいていませんでした。
いちばん細かい直しは、音楽フェスの作例です。これは架空のフェスで、出演者の名前も架空です。スマホの画面で、その出演者名が右端まで数pxしか余っていませんでした。切れてはいません。けれども、余白が数pxというのは、余白ではありません。見る人の画面の幅が少し違えば、あるいは文字の形が入れ替わるだけで、そこは切れます。枠の幅を基準にした文字の大きさを 13 から 11.5 に下げて、余白を作りました。
数pxの余白は余白ではない、というのは、このときに覚えたことです。ぴったり収まっているという状態は、まだ収まっていないのとそれほど違いません。これは映像だけの話ではないと思います。文字の大きさを決めるとき、いちばん長い場合を先に入れてから決めるか、ふつうの場合で決めて長い場合を祈るか。後のほうを選ぶと、いつか誰かの画面で切れます。
この手間を、頼む人が負わなくていいようにするのが私たちの仕事だと思っています。だから KAZENA Motion では、すべての場面を横長(16:9・Web サイト用)と縦長(9:16・Instagram や TikTok 用)の両方で設計します。納めるのは、形ごとの動画のファイルと、元のファイル(HTML・CSS・JavaScript と短い手引き)です。元のファイルがあるので、文字を1行だけ直したいときに、作り直しから始めなくて済みます。
正直に書いておきます。いちばん小さいプラン(Mini Motion)は、横長か縦長のどちらか1つです。既にある型から作る入口のプランなので、2つの形を別に組む作業は入っていません。2つの形が要るなら、その上のプランになります。これは言い換えると、どちらの形が要るかは、作る前に決めておいたほうがいい、ということでもあります。
だから最初に伺うことの1つが、横長と縦長のどちらが必要か、です。この問いは、難しそうに見えて実は難しくありません。言い換えると、これを人が見るのはどこですか、という問いです。Web サイトの上のほうや、打ち合わせで見せる資料なら横長です。Instagram や TikTok、ストーリーズなら縦長です。小さな商売なら、たいてい縦が先に要ります。
今日からできることを1つ書くなら、何かを作る前に、人が最初にそれを見る場所を1か所だけ決めることです。1か所決まれば、形が決まります。形が決まれば、文字を右端まで伸ばすのをやめられます。これは動画に限らず、商品の写真1枚でも同じです。どこでも使える1枚を目指すと、どこでも少しずつ具合の悪い1枚ができます。
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