その雛形を配ったのは、私です。KAZENA Booksに乗り換えるとき、それまでExcelでつけていた記録をまとめて取り込めるように、私たちは入力用の雛形を配っています。列は日付、摘要、勘定科目、金額、税区分。作ったのは私で、春に1日で書きました。正直に言うと、そこそこ気に入っていました。今月になって、その雛形が、私たちの製品に最初に触れる人が最初に踏む罠になっていたことが分かりました。
フィリピンで使ってくださっている方から、妙な連絡が来ました。取り込んだら、5月の経費が急に増えました、と。その方がしたのは、1年分の記録——284行——を雛形に貼り付けて、取り込みボタンを押すことだけです。画面には「取り込みが完了しました」と出ていました。エラーは、ひとつも出ていません。
実際のファイルを見せてもらって、数えました。284行のうち、187行はどこにも入っていませんでした。入ったのは97行。そのうち93行が、間違った月に座っていました。正しい日付で入ったのは4行だけで、それも日の数字と月の数字がたまたま同じだったからです。実質的には、正しく取り込めた行はありませんでした。
原因はファイルの中にありました。雛形は .xlsx で、日付の列にはExcelの日付書式が入っています。Excelは日付を、開いた機械の地域設定に合わせて書き戻します。彼女の環境では、2026年8月13日が `08/13/26` になっていました。手順書には「日付は yyyy-mm-dd で」と書いてあります。書いてはあった。でも彼女は、その欄に日付を打っていません。貼り付けただけです。私たちが受け取ったのは、Excelが書き換えたあとのものでした。
こちら側も見ます。私たちの取り込みは、まず yyyy-mm-dd で読み、だめなら dd/mm/yyyy で読む、という順番でした。`08/13/26` は、日が08、月が13と読まれます。13月は存在しないので、その行は捨てられる。いっぽう `08/05/26` は、8月5日のつもりで書かれたのに、5月8日として素直に通ります。同じ1枚のファイルの中に、壊れ方が2つあった。どちらになるかを決めていたのは、その取引が月の何日に起きたか、それだけでした。
捨てられた行のほうが、まだ親切でした。少なくとも、そこには何も無い。恐ろしいのは通ったほうです。5月がふくらんで、8月がへこむ。年の合計は変わらないので、年でまとめて見ているかぎり誰も気づきません。気づけたのは、その方がたまたま5月の数字を覚えていたからです。覚えていなかったら、そのまま四半期の申告に流れていました。
同じ雛形を、3台の機械で開いて保存してもらいました。ジャカルタで実データを見てくれている会計士のVの環境では `13/08/2026`。彼女の分は、13が日だとしか読めないので、結果的には正しく入ります。ただの幸運です。もう1台の環境では `08/13/26`。ジャカルタから少し離れた町にいる仲間のEの環境では、また別の形でした。同じファイル、同じ列、同じ操作。出てくるものが機械ごとに違う。
ここではっきりしたことがあります。手順書に書いた指示より、こちらが配った既定値のほうが強い。人は説明を読んで従うのではなく、渡されたものを、渡されたままの形で使います。日付書式の付いた .xlsx を配った時点で、私たちは「日付の形は、あなたの機械が決めていい」と言ったのと同じでした。手順書は、そのあとから小さな声で否定していただけです。
そこで、まず推測をやめました。`03/04/26` は3月4日かもしれないし、4月3日かもしれない。この形が混ざったファイルは、もう取り込みません。列の名前と、最初に見つかった行の番号を出して、止まります。日が12を超えていて読み方が1つに決まる場合だけ、こちらの読み方を画面に出して先へ進みます。この列を2026年8月13日として読みます、違うなら切り替えてください、と。
次に、行を黙って失うのをやめました。何かを書き込む前に、ファイルの行数、取り込める行数、読めない行数を並べて出します。読めない行は、行番号と、その行に実際に書いてあった文字をそのまま並べる。何行だめなのか、ではなく、どの行がだめなのか。書き込みは、その画面を見てもらってからです。
最後に、雛形そのものを直しました。いまはCSVで、日付の列は文字列です。1行目に見本の行が1行入っていて、そこに `2026-08-13` と書いてあります。Excelで開いても、書式の付いていない列は書き換えられません。ただ、順番としては逆でした。雛形を配るより先に、雛形が変形して戻ってきたことに気づける仕組みを作っておくべきだった。配ったものは、必ず形を変えて帰ってきます。
この一件でいちばん申し訳なかったのは、そのあとその方が自分の記録を手で直したことです。1年分の帳簿を開いて、月がずれた行を探して、戻して、また合計を見る。好意で試してくださっているだけで、誰かに給料をもらっているわけではありません。私たちのバグの後始末に、その方の夜が1つ消えました。バグの費用は、こういう形で誰かが払います。
念のため書いておきます。私は税理士ではありません。取り込んだ数字はそのまま申告へ流れていくので、月がずれた経費は税額に影響します。最終的な確認は必ず専門家にお願いしてください。私たちにできるのは、その確認が短い時間で終わるように、数字の出どころを分かるようにしておくことだけです。
もしお使いのソフトが「取り込みが完了しました」と言ったなら、その画面が何行入れたかを言っているかどうか、一度だけ確かめてみてください。言っていないなら、黙って捨てているかもしれません。私たちの雛形で同じ目に遭った方がいたら、教えてください。メッセージは私が自分で読んでいます。
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